論文の書き方−ワープロソフトとエディタの連携

前置き

今回は、論文レベル(10000文字以上)の文書を書く方法論についてです。

MoEで想定しているのは、せいぜいA4で1〜2枚(2000字〜4000字)に収まる範囲。これ以上の文章を書く場合は、また別の方法論を、プラスアルファとして用いる必要が出てきます。

考え方

文章を作るときには、二つことが必要になる。

  • 全体的視野の元での洗練
  • 個々の文章レベルでの洗練

一つが、全体的視野の元での洗練。全体のつながりだとか、きちんとした論証をしているか、などについて。
もう一つが個々の文章レベルでの洗練。個々の章とかのレベルでの論証がなされているか、あるいは文章としておかしくないか、などについて。

短い文章の場合は、これを同時にしてしまう。全体的な把握も、A4で1〜2枚なら容易だし、個々の訂正をしてそれを全体に反映させるのも、すぐにできるからだ。

だが、長文になるとこれが難しくなる。自分が書いたものであろうと全体構造、個々の論証を含め、一度に把握することは無理がある。
また、個々の箇所の修正も同様である。そのためには、全体の連関を見て必要な箇所を補うことが必要になるが、一々個々の作業の時に、関連する箇所を全て空で把握することは無理である。

対策

そこで、対策として、この二つの機能に対応した文書を別々に用意する。

  • 全体を把握するための文書(ドラフト)
  • 個々の章に対応した短い文書

ドラフト目次

ドラフト内容

エディタで印刷した個々の章に対応する文書

ドラフトは、ワープロソフトで作成し、目次も入れる。これについては、それほど頻繁に刷り直したりはしない。
個々の文書は、テキストファイル(howm)形式で作成する。その時々で、考察したい分だけを印刷し、再構成をすると同じ要領で発展させる。
ドラフトを元にして全体の構成をいじり、個別の章をどのようにして修正するかという方針を作る。それを元にして、個々の文書で考察、再構成を行い、それをドラフトに反映。これを繰り返すことで、徐々にドラフトを完成に近づける。

ドラフトの作成法

ワープロソフトを利用する。エディタだと、枚数が増えるとになると構造が把握しにくく、読みにくいからだ。ワープロソフトは、見出しを設定でき、目次を見出しから自動作成できるものであれば何でもいい。僕は一太郎を利用している。

イデアメモの一部、あるいは、エディタで下書きしたものからワープロソフトにコピペ。あとは、見出しの設定などを行い、目次を作成する。

そして、プリントアウト。

データの保存をするときは、テキストファイルのメモとは別のフォルダに保存する。僕は、MyDocというフォルダを作り、そこにさらに月ごとで分けたフォルダを作成して、その中に保存している。ファイル名には、バージョンをつけると管理しやすい。


1.ドラフトでの考察

入れ替えと削り

細かいことは無視して、プリントアウトしたドラフトをざっと読んでみる。このときは全体のつながりだけに注意する。論理的につながっていない箇所はないか、主張だけで根拠がない箇所は無いか、など。そして、気に入るように入れ替える。また、論旨に関係の無い箇所は削る。読んでみて感覚的にすっきりしないところをいじる、というのでいい。
また、一つの章を分割したり、新しい章を作ったりしてもいい。そのときは、章のタイトルだけを書き加えるようにする。

個々の章の指針

読んでみて、不十分だと感じた箇所にチェックを入れ、修正の指針を書き込む。このとき注意することは、直接文書の修正を行わないこと。ドラフトは、一定期間利用するので、書き込みで汚して読みにくくさせないためだ。単純な指示を余白に書き込むというのでいい。また、それを十全にするために必要な情報の心当たりがあるのなら(自分が過去に作成したメモでも誰かの書いた文書でも)、それも書き込んでいい。

2.個々の章単位で考察

次は個々の章単位の修正をしていく。
ドラフトでチェックした箇所全て、個々の章単位でドラフトデータからコピー、それをテキストファイル(howm)形式で保存、エディタの機能で印刷する。

該当箇所をコピー

ペースト

このようにして、ドラフトからいくつかの、個別の章に対応したテキストファイルを作成。それぞれプリントアウトする。
次は、ドラフトの指示を参考にして、このプリントを論理だったものに修正していく。プリントへの書き込み方でやったのと同じ要領です。論理的なつながりをわかりやすくするとか、不要な情報は削るだとか、不足している部分のソースを補うとかをします。
そして、この書き込みを、それぞれプリントの元データに反映させる。そしてまたそれぞれプリントアウトし、修正を加えていく。
「プリントアウト→プリントに書き込み→元のデータに反映」というサイクルを、ドラフトから作成した、個々の章に対応する複数のテキストファイル全てで繰り返していくわけです。


3.ドラフトとの統合

個々の章単位での考察が終わったら、次はこれをドラフトに統合します。

まずは、ワープロソフトでドラフトのデータを開き、「1.ドラフトでの考察」でドラフトに書き込んだ、入れ替えや削りの指示を反映させます。
次に、「2.個々の章単位で考察」で行った、個々の章の考察を反映させます。テキストデータの中身を、ドラフトデータの対応する章に上書きします。
一度該当箇所を消去して

テキストファイルからコピペ

このようにして、ドラフトデータにこれまで行った考察を全て反映させたら、名前を付けて保存。末尾にバージョンをつけて保存するとわかりやすいでしょう。これで、新しいドラフトデータができる。これは、元のドラフトデータよりも、きっと完成に近づいたものになっているはずです。

次からは、この新しいドラフトを元に考察する。ドラフトをプリントアウトし、「1.ドラフトでの考察→2.個々の章単位で考察→3.ドラフトとの統合」を、不十分な箇所が無くなるまで繰り返します。

Tips−ドラフト

プリントの管理

プリントアウトしたものは、ダブルクリップで留める。枚数が少なければ、ホッチキスで留めてもいい。

見出しの連番

見出しの最初に数字をつけると、個々の章で考察するときに管理が楽。後でドラフトに統合するとき、どこに上書きするかで迷ったりしない。

2.3

みたいにしている。さらに細かく分けたければ、2.3.1みたいに数字を増やす。左から、大見出し、中見出し、小見出しを表している。

章の削り方

結論に関係しているかどうか、が基準。していなければ、削る。
また、もし関係していたとしても、論拠として薄弱であったり、他に有力でわかりやすい根拠があったとしたら、削った方がいい。

Tips−個々の章

要領は、メモでの考察と同じです。プリントへの書き込み方プリントの印刷方法再構成をする、などを参照してください。

プリントの管理

プリントアウトしたものは、クリアファイルに保存する。

削ることがメイン

同じことについて語っている文章が二つあれば、一つは削る。
関係のないことについても、本筋と関係のないことについても、ついでにふれたことについても、レトリックも、全て削る。とりあえず、最初は削ることのみを行い、それによって構造をはっきりさせるのがいい。これが第一段階です。
そうしてできるだけ骨組みだけの状況にしておいて、次の段階で、読んだときにわかりにくいだろう箇所を補い、文書を付け足していく。このときは、レトリックとかそういうのではなく、読む人を説得させるための新しい根拠を付け足す、というつもりでやるのがいいです。

文章を削る意味

レトリックを排除、ひたすら単純な論理構成のみが残るようにすると、全体での考察の時に、非常にやりやすくなります。自分が何についてわかっていないか、がこのようにすると明確になるのです。普段は、そういうのは、レトリックや複数のことをごっちゃにして考えているだとか、比喩だとかによって隠されているのです。
だから、表現が云々だとかそういうのは考えず、できるだけ文章は端的であるほうがいい。小説やエッセイを書くのとは違うのです。論文=人に読ませる文書、では、必要な情報が詰まっていてできるだけ一目で把握できるということがポイントなのです。

その他のポイント

目指していること

個々でやる作業はバラバラであっても、全体としてみたら積み重なった状態にしよう、としています。
そして、その成果は全て、ドラフトにあらわれるようにしている。

二つの文書を使う理由

ドラフトと個別の章のプリントを分けているのは、一々書き込みをするたびに、文書全体を刷り直すというのが無駄で手間だからです。
だから、修正を繰り返してドラフトのバージョンがあがり、もうあとは細かい誤字だとか文章の修正だとかしかない、となったら、ドラフトのみを用いて直接修正作業を行う、というようにしてももちろん問題ないです。